『偽・恋愛小説家』の感想

偽恋愛小説家 (朝日文庫)
森 晶麿
朝日新聞出版 (2016-07-07)
売り上げランキング: 184,863



twitterより引用

3月に図書館でジャケ借りした作家さんが読みやすくて面白かったのでまた別のも借りて読んでみて、
まだ序盤だけどやっぱり面白い。
06/10/17, 0:38





森 晶麿さんの偽恋愛小説家を読み終えて、
この人の作品は図書館で何でもいいからとにかく活字が読みたいと思ってジャケット借りしたサロメが初めてだったんだけど、
今回も前回以上に好みのお話で面白かった!次はこの話の続編を借りる!
06/19/17, 1:03





*** 以下ネタバレ ***



新人編集者、井上月子が担当する新人恋愛小説家、夢宮宇多に偽物疑惑が浮上する。
この本の面白いところはまず章ごとの物語が面白い解釈をした童話と重ねて展開されているというところ。

まず初めはかの有名な『シンデレラ』。
この章の序盤で夢センセが話すシンデレラの解釈に前回サロメを読み終えた時と同じような感動を覚えた。
『シンデレラ』の主人公はシンデレラではなくガラスの靴だという解釈。
シャルル・ペローの原作のタイトルは『サンドリヨンまたは小さなガラスの靴』だった。
なぜガラスの靴だけが12時を過ぎても消えなかったのか、実は魔法使いの王家への呪いが成就する話だったのでは。
王家の血筋を崩壊させたい魔法使いがガラスの靴に認証キーの役割をもたせ、シンデレラがガラスの靴に足を通すとき、それは魔法使いが城へ入る通行手形を手にする瞬間で、その時にはシンデレラと魔法使いが入れ替わっていたのではないか。
この物語は風刺的なもので、ルイ14世に寵愛されていた為に表立ってものを言えないペローが王子の目が見えないと仄めかしていたのか、もしくは王家に真贋(しんがん)を見極める才覚が実際にはないと愚弄しているかどちらかだったのでは。

それを大御所恋愛小説家が辞退した代わりに招かれた夢センセがロマンティックな体験談を持つ女性の元を訪れて<シンデレラストーリー>を聞かせてもらうというネットテレビのホスト役として聞いた石油王、一色慶介氏とその妻笙子(しょうこ)氏の出会いの話に絡めた内容は面白くてあっと言う間に読み終わった。


二つ目は『眠れる森の美女』。
この章でも夢センセは童話を面白い観点から読み解いて解釈していた。
なぜ当時の国王と懇意にしていた妖精がねむり姫にかけられた呪いを解くのではなく100年後に目覚めるなんて魔法をかけたのか。国王には眠り姫に100年眠っていて欲しかった理由があるのではないか?
つまり眠り姫は国王の子供を妊娠していたのでは?
糸車は男性のメタファーだった。糸車を持つ老婆=年老いた国王と解釈できる。
そして眠り姫のには後日談があり、その物語では王子の母親が人喰い人種であるとされている。
実は眠り姫も人喰い人種だった。このことから王子の母親と眠り姫に何らかの関係性があったと考えられる。
眠り姫は眠りながらに国王の子を出産し、その子はやがて成長し城を抜け出した。
そしてその子の何某かが王子を生み、その王子が眠り姫を助けにきたのでは。

編集長に他社の授賞式に行くように勧められた月子が訪れたホテル、東京鶴亀館で偶然夢センセと会う。
そしてその日の主役である受賞者仮谷紡花(かりやつむはな)と、その婚約者である沖笛謙。
その2人のストーリーもシンデレラ同様、眠れる森の美女の夢センセの解釈と絡み合っていく。


三章『人魚姫の泡沫』。
その名の通り三賞は人魚姫と絡めて月子の高校時代の青春が回想される。
そして夢センセを追いかけて訪れた伊豆高原で当時好きだった相手、三船と再会する。

人魚姫の夢センセの解釈は喜劇的な悲劇。
この物語は当時貧困の真っただ中にあったデンマークにおいて「適正な取引以外には応じるな」というアンデルセンの教えだった。
そして王子が似てもいない女を人魚姫だと思い込んだのはどこかの国の姫がしゃべない人魚姫と違って言葉を所有していたから。
それとお金。人は言葉とお金に弱い。
人魚姫はアンデルセンがこのうんざりな世の中に唾を吐いている最高にロックな小説である。

久しぶりに会った高校時代の青春に動揺している月子にタクシー運転手が「感傷と恋をはき違えると人魚姫になる」と言う。
その言葉に三船は感傷であると気付いた月子は人魚姫の様に泡沫にならずに済むのだった。


そして4章『美女と野獣』。
野獣の内面に惹かれて恋に落ちたベルだったのに、どうして野獣は最後人間に戻ってしまったのか。
それは読者のために戻らされたのでは。

夢センセにかけられた偽物疑惑と、処女作『彼女』の本当の物語。
そのすべてがここで明らかになりました。

前回サロメを読んだときに感じたこの作家さんのすごさをこの話でも見られた。
最期まで夢中で読みすすめられました。
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